宗教とは何か② ユダヤ教・キリスト教・イスラム教の基本


前回から「宗教とは何か」というテーマで、宗教の基本についてご説明をしています。

今回は、宗教が世界的に広がる起源となったユダヤ教、そして、そのユダヤ教をベースに現在では世界宗教となっているキリスト教、イスラム教について、その成り立ちや基本的な教えについてご説明したいと思います。


ユダヤ教とは


前回の記事でお伝えした通り、宗教の起源は「自然現象への恐れ」によるものでした。

しかしそれはある一定の地域のみで信仰されるもので、世界的に同じ信仰が広がる、というものではありませんでした。
(自然の特性はそれぞれ地域ごとに異なるためではないかと思います。)

そのような状況で、宗教として一定の「教え」が確立され、地域を超えて広がり始めるきっかけとなったのが「ユダヤ教」です。

ユダヤ教自体は主にユダヤ人のみが信仰した民族宗教で、世界宗教と呼ぶには地域的な広がりがありませんが、ユダヤ教を母体としてキリスト教、さらにはイスラム教が生まれたため、宗教的には非常に重要な存在です。


<ユダヤ教の成り立ち>

紀元前2000年ころ、アブラハムという人物が「約束に従えば、幸福を与える」という趣旨のメッセージを神(ヤハウェ)から受け取ったことがユダヤ教の歴史の始まりです。

その後、アブラハムの子孫であるヘブライ人(ユダヤ人)は、エジプトの王政下で奴隷として扱われていました。
ある日、ヘブライ人であるモーセは神(ヤハウェ)から「エジプトを脱出し、カナン(現在のパレスチナ)を目指せ」というメッセージを受け取ります。

モーセは民を率いてエジプトを脱出し、カナンへ向かう途中、シナイ山という山で神ヤハウェから十戒(神とヘブライ人の約束)を授かります。

モーセは神の預言者となり、この十戒をベースに様々な戒律、ルールが作られ、「ユダヤ教」として成立していきます。
※「予言」ではなく「預言」です。神の言葉を預かった人、という意味です。


<ユダヤ教の基本的な教義>

ユダヤ教の基本的な教義は

律法を守り、実践することで、世界の終わりに救世主(メシア)が現れ、救われる

というもので、律法を守り、決められたルールを実践することが最も重視されます。

【モーセの十戒】

1.主が唯一の神であること
2.偶像を作ってはならないこと(偶像崇拝の禁止)
3.神の名をみだりに唱えてはならないこと
4.安息日を守ること
5.父母を敬うこと
6.殺人をしてはいけないこと(汝、殺す勿れ)
7.姦淫をしてはいけないこと
8.盗んではいけないこと(汝、盗む勿れ)
9.隣人について偽証してはいけないこと
10.隣人の家や財産をむさぼってはいけないこと


安息日には仕事をしないだけでなく、機械の操作や火を扱うことも許されない。
また、肉と乳製品を一緒に食べてはいけない、など、食に関する禁止事項も多く、上記の十戒をベースに600を超える様々な律法を守り、実践しているのがユダヤ教徒です。(ユダヤ教の食事規定を「コーシェル」と呼びます。)

ユダヤ教の聖典は神による天地創造やモーセの物語、律法について書かれた「タナハ」と、モーセが口伝で語り継ぐべき律法として語った「タルムード」などがあります。

また、ユダヤ教の礼拝場所は「シナゴーグ」と呼ばれる会堂で、キリスト教の教会の前身となった場所です。


<その後のユダヤ教の歴史と現在>

紀元前1000年ころから、ダビデ王、ソロモン王といった指導者がユダヤ人の王国となるイスラエル王国を建国。
また、エルサレム神殿を建造し、ユダヤ教徒の聖地としました。

その後、エルサレム神殿はローマ帝国に破壊され、ユダヤ教はローマ帝国の支配下におかれます。
この頃のユダヤ教の指導者は、ローマ帝国と癒着して、民衆に律法を強いて、自身は供物や上納金で私腹を肥やしていました。

このように腐敗し、形骸化したユダヤ教を批判したのが、後にキリスト教となる教えを説いた「イエス・キリスト」です。

キリスト教の項で詳しく説明しますが、イエスの教えが力を持つことを恐れたユダヤ人とローマ帝国は、イエスを反逆罪で処刑します。
この経緯を根拠に、キリスト教徒の反ユダヤ主義が強まり、その考え方は現代にも残っています。
(ヒトラーのユダヤ人迫害にもこの考え方が利用されました)

現代では、ユダヤ教はキリスト教やイスラム教のように世界中に広がることはなく、主にイスラエルのユダヤ人を中心に、約1,400万人が信仰する宗教となっています。

現代では、戒律を厳格に守る「正統派」、現代社会に合わせ食事の自由などを認める「改革派」、その中道を行く「保守派」に大別されます。



キリスト教とは


キリスト教は世界23億人と、最も多くの人が信仰している宗教です。
先ほども軽く触れた通り、キリスト教はユダヤ教をベースに、その批判から生まれた宗教です。

<キリスト教の成り立ち>

ある日、ダビデ王の子孫でユダヤ教徒であるマリアという女性のもとに、神の使いである天使が現れ「マリアのお腹に神の子が宿った」と伝えます。
そしてマリアはその通り処女のまま妊娠し子を産みます。この子供がイエス・キリストです。

成長したイエスは、神がもたらす力(聖霊)に導かれ、荒野で断食を行い、また、悪魔からの「悪魔に従えば国々を与える」などの誘惑の試練を乗り越え、自身の考えを広める宣教を始めます。

その考えは、ユダヤ教のような律法を守ることや形式にとらわれるのではなく、目の前の困っている人を助ける(愛する)といった考えで、腐敗していたユダヤ教批判を含むものでした。

イエスは宣教中に水をぶどう酒に変える、病気を治す、嵐を鎮めるなど、様々な奇跡を起こします。
これらを見た人々は、イエスこそがユダヤ教で言われる救世主(メシア)である、と考え、キリストの教えが普及していきます。

イエスの教えが力を持つことを恐れたユダヤ教の指導者とローマ帝国は結託し、イエスを反逆罪で処刑します。(十字架への磔刑)

処刑されたキリストは3日後に復活し、自身の弟子たちに今後も世界に神の力(聖霊)をもたらすことを伝え、天にのぼっていった、と言われています。

その後、弟子たちによってイエスの教えが確立され、「キリスト教」として広められていくこととなります。


<キリスト教の基本的な教義>

キリスト教の基本的な教義は、

神を愛し、隣人を愛し、敵を愛する。
そうすることで、世界に救い(苦しみからの解放)がもたらされる。


というもので、ユダヤ教のように律法を守ることにはこだわらず、敵味方を問わず、周囲の人を愛することを説きます。

また、もう1つ大切な教義として、神を信仰することで、人間が生まれながらにして持つ「原罪」から救われる、というものがあります。
人類の始祖であるアダムとイブは、神に禁じられた実を誘惑に負けて食べたことで罪を背負い、その子孫である全ての人間は生まれながらに罪を背負っている、とされます。

キリスト教では、イエスの死によってその罪は償われたと考えられており、キリスト教を信仰するものは、その罪から解放される、というのも大切な教義の1つです。

キリスト教における神は、父なる神(ヤハウェ)、子なる神(イエス)、神がもたらす力(聖霊)、これら3つを一体の神として信仰する「三位一体」の信仰となっています。

形式にこだわるユダヤ教批判から始まったことからか、キリスト教には食事規定はありません。

キリスト教の聖典は、旧約聖書(ユダヤ教での聖書)と、新約聖書の2つ。
旧約とは、「旧い(古い)約束」という意味で、モーセなど、キリストが生まれる前の神との約束の話を「旧約聖書」(ユダヤ教で言う「タナハ」)
キリストが生まれた後の神の約束との話を「新約聖書」と呼びます。

また、キリストが処刑され、3日後に復活した場所がエルサレムであったことから、エルサレムが聖地とされています。


<キリスト教のその後>

イエスの死後は、その弟子たち(ペテロ、ヤコブ、ヨハネなど)によってキリスト教が布教されました。
当初はキリスト教を否定していたローマ帝国でしたが、その広がりに抵抗できず、味方につけることが得策であると考え、西暦313年にキリスト教を公認、西暦380年にはキリスト教はローマ帝国の国教とされました。

その後、西暦395年にはローマ帝国が東西に分裂。
東西の政治的な対立から、1054年にキリスト教も西の西方教会と、東の東方正教会に分裂します。

西方教会は、ローマ教皇をトップとするピラミッド組織で、聖書の解釈は教皇や聖職者の役割と考えられていました。
また、神の救いが得られると称してお金を集める(免罪符)など、腐敗した組織となっていました。

1500年頃、これに異をとなえ、ルターによる宗教改革が起こります。
ここから、ローマ教皇をトップとはしない「プロテスタント」という教派が広がっていきます。

今日では、ローマ教皇をトップとする「カトリック」、人々は神の下に平等であると考える「プロテスタント」、各自治組織が横でつながる「東方正教会」の大きく3つの教派が存在している状態です。



イスラム教とは


イスラム教は西アジア、北アフリカを中心に、世界中で約16億人が信仰している世界宗教です。
イスラム教もキリスト教同様に、ユダヤ教から多くの考えを引き継いで生まれた宗教です。

<イスラム教の成り立ち>

西暦600年頃のアラブでは、昔ながらの多神教(自然信仰)やユダヤ教が信仰されていました。
また、アラブへローマ帝国が侵攻してきていたことにより、キリスト教もアラブ世界に近づいてきている状況でした。

そんな状況下、西暦613年、ムハンマドが洞窟で神から「神は1つである」「神への絶対服従」などのメッセージを受け取ります。

ここから、ムハンマドが神から受けた啓示をもとにした「イスラム教」の布教が始まります。

まずはメッカでの布教を始めますが、もともと存在していた多神教者からの敵意にさらされ、メディナに移住します。
メディナではユダヤ教が普及していましたが、異教徒との争いに勝利し、イスラム教の布教に成功します。

630年頃にはメッカでの異教徒との争いに勝利し、異教徒を追放します。
これをきっかけに、イスラム教はアラビア半島全体に広まっていきました。


<イスラム教の基本的な教義>

イスラム教の基本的な教義は

唯一の神に絶対服従し、神の命令に従って生きることで、死後天国に行ける

というもので、イスラム教においては現世は仮の姿、死後が真実の姿であると考えられています。

神(アッラー)が唯一の神であり、またその啓示をうけたムハンマドが真の神の使途である、ということを重視します。

イスラム教の教えての根幹は「六信五行」(6つの信仰と5つの行為)としてまとめられています。

【六信】…イスラム教徒が信じるべき6の信仰の柱

1.神=アッラー
2.天使=アッラーの使い
3.啓典=コーラン
4.預言者=ムハンマド
5.来世=死後の真の世界
6.定命=すべてアッラーの意思で決まっている

【五行】…イスラム教徒が行うべき5つの行為

1.信仰告白=「アッラー以外に神はない」「ムハンマドは神の使途である」と宣言すること
2.礼拝=1日5回、メッカに向かって礼拝すること
3.喜捨=財産の一部を貧しい人に分け与えること
4.断食=イスラム歴の9月、日中は飲食をしないこと
5.巡礼=一生に一度メッカに巡礼すること(体力的、経済的に可能な者のみ)


その他食事や服装など様々な規定が書かれたのが、聖典となっている「コーラン」で、イスラムの礼拝所は「モスク」と呼ばれます。

コーラン以前に神の啓示を示した書物としてのユダヤ教のタナハ(旧約聖書)、キリスト教の聖書(新約聖書)も、その存在は認めています。
また、イエスも預言者の1人であることは認めているものの、あくまでも最後の、真の預言者はムハンマドである、というスタンスです。

イスラム教でいう「アッラー」は、ユダヤ教やキリスト教でいう「ヤハウェ」と同じ神を指していると考えられますが「神はアッラーのみである」というのが非常に重要な考えなので、キリスト教においてイエスや聖霊も神の1つとして考える「三位一体」の考え方は受け入れられません。

イスラム教においてはムハンマドが最初に異教徒との争いに勝利したメッカ、メディナを聖地としていますが、さらに、ムハンマドが一夜にしてメッカからエルサレム神殿への旅をした、という神的体験からエルサレムも聖地の1つとなっています。


<イスラム教のその後>

ムハンマドは632年に病死しますが、その時点でアラビア半島のほとんどはイスラム教に改宗していました。
その後は、その親族を中心にイスラム教が受け継がれていきます。

西暦638年にはエルサレムを支配しますが、1099年にはキリスト教勢力の十字軍がこれを奪い返します。
この頃から、イスラム教とキリスト教の争いの歴史は続いていくことになります。

また、エルサレムの死後、イスラム教徒の選挙で選ばれた後継者は「正統カリフ」と呼ばれ、4代目のアリーまで正統カリフの時代が続きました。
(この間に聖戦(ジハード)と称して異教徒との争いを行い、勢力を拡大していきます。)

しかし、正統カリフであるアリーと対立していたムアーウィヤが、アリーの死後、正統な選挙を経ず、5代目のカリフを自称します。
その後は、アリーの息子であるフサインと、ムアーウィヤの息子であるヤズィードが争いを続け、ヤズィードが勝利。
ヤズィード達の派閥である「スンナ派」がイスラムの覇権を握り、今日のイスラム教徒の90%を占めています。

一方、4代目の正統カリフ(アリー)とその子孫のみがイスラムの指導者である、と考える派閥は「シーア派」と呼ばれ、イラン・イラクなどを中心に信徒が存在しているが、その数はイスラム教全体の1割以下となっています。

また、イスラム教がこうした闘争の歴史を持っていることから、異教徒との戦争を「ジハードである」と正当化するイスラム過激派と呼ばれる組織も存在するが、これは本来のイスラム教のあり方とは関係がないことを認識しておく必要があるでしょう。



ユダヤ教・キリスト教・イスラム教のまとめ


最後に、3つの宗教の比較表を載せてみます。



それぞれ教義は異なりますが、実は同じ神(ヤハウェ、イスラム教の呼び方はアッラー)を信仰しているということが分かります。
3つとも同じ起源を持つことから、これら3つの宗教をまとめて「アブラハムの宗教」と呼ばれます。


同じ神を信仰しているがゆえに、その解釈で争いが生まれるのかもしれませんが、大半の人は他人の信仰を否定するような考えは持っていません。
現代で宗教的な理由で起きていると見られる戦争も、実際には表向きは宗教を理由にした、政治的な勢力の争いにすぎない、と私は思います。


今回ご説明した宗教は世界的にも信仰者の多い宗教ですので、国際社会で生きていくい上で基礎知識として知っておいて損はないでしょう。




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