宗教とは何か④ 神道・儒教・道教の基本


これまで

ユダヤ教を起源とする「アブラハムの宗教」(ユダヤ教、キリスト教、イスラム教)
インドを起源とする2大宗教(仏教、ヒンドゥー教)

について説明をしてきました。

今回は、比較宗教学の観点ではアブラハムの宗教、インド宗教と並び三分類の1つに位置づけられる「東アジアの宗教」についてご説明します。

東アジアの宗教において主なものである、

東アジアの各国で信仰される「儒教(じゅきょう)」
中国で信仰される「道教(どうきょう)」
日本で信仰される「神道(しんとう)」について説明します。



儒教


儒教は中国三大宗教の1つとされる宗教の1つです。(道教、儒教、仏教)
その教えは中国のみならず、アジア各国に広がり、各国において重要な思想となっています。



<儒教の成り立ち>

紀元前700年頃から紀元前200年頃にかけて、中国において様々な思想を持つ学者、学派が現れました。
(これらを総称して諸子百家と呼びます)

このうち「孔子」は、古代から中国にある自然信仰や祖霊信仰を取り入れ、自身の教えを確立します。
この学派が「儒家」と呼ばれ、儒教の始まりとなります。

儒教は、紀元前200年頃~紀元後(西暦)200年頃の前漢~後漢の時代に、国が学ぶべき学問として官学化され、後に国教となりました。



<儒教の教え>

儒教の基本的な教えは、

自身を律し、徳を高めることで、必要な人間関係を維持し、また、人を治める

というものであり、日常生活の心得のみでなく、政治のための思想であることが特徴です。

前半の自身を律し、徳を高める上で、重要となる5つの要素が五常(五徳)と呼ばれるものです。

<五常(五徳)>
仁…人を思いやること
義…利欲にとらわれず、正しいことをすること
礼…礼儀をわきまえること
智…知識をつけ、物事を理解すること
信…人を信じ、人を欺かないこと



そして、それにより維持すべき人間関係のことを五倫と呼びます。

<五倫>
父子の親…父と子の間は親愛の情で結ばれなくてはならない
君臣の義…君主と臣下は互いに慈しみの心で結ばれなくてはならない
夫婦の別…夫には夫の役割、妻には妻の役割があり、それぞれ異なる
長幼の序…年少者は年長者を敬い、したがわなければならない
朋友の信…友はたがいに信頼の情で結ばれなくてはならない



こうした考えから、儒教においては年長者を敬うことや、先祖の霊を敬う思想が強くなっています。

これら儒教の教えは様々な書物にまとめられましたが、その主なものが四書五経と呼ばれるものです。

四書…「論語」「大学」「中庸」「孟子」
五経…「易経」「書経」「詩経」「礼記」「春秋」


儒教は自然神(天神、地神)や、先祖の霊(祖霊)を神として祀るものの、絶対的な神が存在しないのも1つの特徴です。


<儒教のその後の展開>

紀元前200年頃から始まった儒教の国教化以降、各時代の統治者において思想の柱となったのが儒教です。
道教や仏教の隆盛により儒教の弾圧が高まった時代があったものの、その後、1912年の清朝崩壊まで、政治において、また中国国民にとって中国の思想の根幹となっています。

儒教は中国国内のみでなく、韓国・ベトナム・日本などのアジア各国にも伝わり、それぞれの国の思想に強い影響を与えました。
(日本における仏教が祖霊信仰を持っているのも、儒教の影響を強く受けています。)

1912年の清朝崩壊以降、中国共産党の成立にかけて儒教は弾圧の対象となりましたが、現在では儒教の再評価が行われ、今なお中国における重要な思想となっています。




道教


道教は中国三大宗教の一つとされる宗教です。(道教、儒教、仏教)
自然神や伝説上の偉人などを神として祀る多神教ですが、実態は中国古来の生活信条や民族信仰を取り込んで形作られており、様々な要素を持つ宗教です。


<道教の成り立ち>

前述のとおり、紀元前700年頃~紀元前200年頃にかけて、「諸子百家」として中国において様々な学者、学派が現れました。

諸子百家のうち、「老子」と「荘子」は、次のような思想を説きます。

人間の力では変えようのない、宇宙を支配する原理や真理を「道」と呼ぶ。
人為的なもの、形式的なものを捨て、「道」に従った自然に生きることが人間のあるべき姿である。


このような考え方を「老荘思想」と呼びます。

これは、前述の「儒教」のように、意識的に高いモラルを求める人為的なものや、人生における競争を否定するものでした。

その後、後漢末(西暦180年頃)になると、この老荘思想を取り込み、張角という人物が「太平道」という道教の一派を創始します。
また同時期に張陵という人物も「五斗米道」という道教の一派を起こします。


これらが道教の始まりであると考えられています。



<道教の教え>

道教は中国の様々な民族信仰を取り込んでいるため、その教義を定義するのは難しいものですが、共通する主な考えは

無為自然に生き、神を信仰し、養生術を実践することで不老長寿を目指す(≒神仙、仙人となる)

というものです。
こうして仙界に到達することで苦しみから救済される、と考えます。

養生術には呼吸法やマッサージ、漢方薬などが含まれ、現在の東洋医学に引き継がれています。

物事を火、水、土、木、金という自然に当てはめて考える「陰陽五行思想」や、それを基に位置の吉凶を判断する「風水」など、もともと中国で信仰されてきた考え方も道教に取り入れられ、おふだを用いた呪術が道教において行われました。

前述のとおり自然神や伝説上の人物など多くの存在を神格化し、神として扱う多神教でしたが、
その中でも特に「三清」という3人の神が最高神格として崇められ、次いで「四御」という神が崇められました。

<三清>
元始天尊…万物の始まりを意味する「太元」を神格化した神
太上道君…宇宙の根本原理である「道」を神格化した神
太上老君…老子を神格化した神

<四御>
玉皇大帝(ぎょくこうたいてい)…天道をつかさどる
北極紫微大帝(ほっきょくしびたいてい)…四季と日月星辰、天地をつかさどる
天皇大帝(てんこうたいてい)…天地人の三才万物、星辰、兵革をつかさどる
后土(こうど)…陰陽と万物の生育をつかさどる



<道教のその後>

道教は中国において儒教や仏教と対立しながらも、様々な学派を生みながら引き継がれていきました。
近代では中国共産党の宗教禁止政策などで打撃を受けたものの、現代でも途絶えることなく、中国を中心に受け継がれ、信者がいます。

中国における思想の中心は「儒教」だと考えられますが、儒教的な教えに疲れた、疑問を覚えた人々が、道教に救いを求めるとも言われています。



神道


日本で「神道を信仰してます」という人はなかなかいないと思いますが、多くの人が新年には神社に行き、お参りをしています。
また、自然や食べ物など、あらゆるものに見えない神的存在を感じているはずです。

神道はそのくらい、日本人の日常生活に溶け込んでるものです。

<神道の成り立ち>

神道という宗教は、開祖や体系的な教義がないものです。

古来から日本各地に存在していた自然信仰や祖霊(先祖)信仰を、西暦700年頃の飛鳥時代に、全国の神社を管理し、神を祀る統一的なルールを律令として定めたことで「神道」として成立した、というのが現在の見解です。


<神道の教え>

神道の基本的な思想は、

・自然、文化などあらゆるものに神の存在を認める「八百万の神」の思想
・神は恵みをもたらすとともに、災害をもたらす存在でもある
・神を祀ることで安寧を祈る


といったものです。

自然神とは太陽神や月神、風神、雷神、山神、海神などの天体や地形、気象を神格した神が挙げられます。
文化神とは、屋敷神、氏神、産土神、疫病神、田の神、漁労神など、人間の文化に宿る神を指します。

他にも、偉大な功績を持つ人物を神格化することもあります。
この考えのもと、祖先の霊を神として祀ることも、神道の考えの1つです。

神道においては明確な経典は存在しませんが、日本の誕生から様々な神について書かれた「古事記」や「日本書紀」などが経典とされます。

また、「日本書紀」において、主神である天照大神が天皇家の始祖であるとされました。


<神道のその後>

西暦500年頃に日本に仏教が伝来していますが、仏教における仏陀も、神の一種であると解釈され、日本に受け入れられていきます。
また同様に、神も仏へ帰依する(信仰を抱く)ものである、という考え方もなされ、仏教と神道が入り混じった思想ができあがっていきます。
こうした西暦900年ころまでの動きを「神仏習合」とよび、今日の日本の思想に強く影響を与えています。

例えば、もともと仏教には先祖の霊を祀る、という思想はあまり強く存在しません。

しかし、日本に伝わった仏教が中国における儒教の考えを含んでいたことに加え、神道が祖霊を祀る思想を持っていたことから、これらの考え方がまじりあうことで、お盆やお墓参りなど、先祖の霊を祀る日本独自の仏教が出来上がっていきました。
(日本においては仏教がお葬式の時だけ現れることで「葬式仏教」と揶揄されることもあります。)

1869年、倒幕後の明治初期においては、新しい近代化した日本を作るための思想的な柱として、神道の国教化が進められ、神道にルーツを持つ天皇を崇めるべき存在とすることで、国民を1つにまとめる政策が行われました。

この考えは愛国心教育などに利用され、結果的には戦争という悲劇につながっていく要因にもなりました。

戦争後は、GHQにより国家神道の廃止が進められ、憲法において政教分離の原則が掲げられました。

政治とは切り離されましたが、今なお、あらゆるものに神が宿る、という畏怖の心は、多くの日本人に根付いています。




以上、儒教・道教・神道という東アジアの宗教についてご説明しました。
現代では普通に接するものでも、実はこれらの宗教にルーツがある、というものも多くあります。
我々の生活に密着する宗教として、基本は知っておいたほうがよいでしょう。

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